自分さえ助かれば他人は傷付けてもいいと人を犠牲にしてしまう心理。ミルグラムの実験 人は「権威者への服従」を拒否出来るのか?
もし、あなたが「あいつをボコボコに痛めつけろ」と命令されたらどうしますか?
きっと断ることでしょう。
しかし、その命令者が圧倒的な力を持った上司や権威者であったりして、その権威者がその危害を正当化し、更に何があっても全責任をとってやるから、やれと言われたなら…
それでもあなたは断ると言うかもしれませんね。
「権威者によって他人の体に危害を加えるように指示されたとき、いったい人々はどう振る舞うか?」
それを証明するかのような「ミルグラムの実験」と呼ばれる驚愕の心理実験が1960年代、アメリカのイェール大学にて行われました。
結果はどうなったのでしょうか?
Wikipediaより
ここに実験内容を書きますが、上記のYoutubeのほうがわかりやすいかもしれないです。
★実験の内容
実験の略図。被験者である「教師」Tは、解答を間違える度に別室の「生徒」Lに与える電気ショックを次第に強くしていくよう、実験者Eから指示される。
・被験者たちはあらかじめ「体験」として45ボルトの電気ショックを受け、「生徒」の受ける痛みを体験させられる。
次に「教師」と「生徒」は別の部屋に分けられ、インターフォンを通じてお互いの声のみが聞こえる状況下に置かれた。
・「教師」は「生徒」に単語テストを行う。
「生徒」が正解すると、「教師」は次の単語リストに移り、
「生徒」が間違えると、「教師」は「生徒」に電気ショックを流すよう指示を受けた。
また電圧は最初は45ボルトで、「生徒」が一問間違えるごとに15ボルトずつ電圧の強さを上げていくよう指示された。
電気ショックを与えるスイッチには、電圧とともに、そのショックの程度を示す言葉が表示されている。
15ボルト (軽い衝撃)
75ボルト (中度の衝撃)
135ボルト (強い衝撃)
195ボルト (かなり強い衝撃)
255ボルト (激しい衝撃)
315ボルト (はなはだしく激しい衝撃)
375ボルト (危険で苛烈な衝撃)
435ボルト 450ボルトは、危険”をさらに超えた強さとして扱われる。450ボルトが最大。
・実は被験者は「生徒」に電圧が付加されていると信じ込まされるが、実際には生徒はサクラで、電気ショックの罰は与えられない。
しかし各電圧の強さに応じ、あらかじめ録音された「『生徒』が苦痛を訴える声」がインターフォンから流される。
・ 135ボルトになると、うめき声をあげる
・180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
・ 300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
・ 330ボルトになると、無反応になる。
と言った具合に。
被験者が実験の続行を拒否しようとする意思を示した場合、白衣を着た権威のある博士らしき男が感情を全く乱さない超然とした態度で次のように通告した。
「続行してください。」
「この実験は、あなたに続行していただかなくては。」
「あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。」
「迷うことはありません、あなたは続けるべきです。」
四度目の通告がなされた後も、依然として被験者が実験の中止を希望した場合、その時点で実験は中止された。そうでなければ、設定されていた最大ボルト数の450ボルトが三度続けて流されるまで実験は続けられた。
★実験結果
結果は、なんと被験者40人中25人(統計上62.5%)が用意されていた最大ボルト数である450ボルトまでスイッチを入れた、というものでした。(イェール大学心理学専攻の四年生14人の事前アンケートでは最大の1.2%の予想)
ミルグラムはこの実験を他にもさまざまな状況で行いましたが,どの状況下でも61~66%の範囲の人たちが致死的な電気ショックを与えたということです。
何人かの被験者は実験の中止を希望して管理者に申し出て、「この実験のために自分たちに支払われている金額を全額返金してもいい」という意思を表明した者もいました。
しかし、権威のある博士らしき男の強い進言によって一切責任を負わないということを確認した上で実験を継続しており、結局300ボルトに達する前に実験を中止した者は一人もいませんでした。
なんと、全ての被験者が、300ボルトまでの電気ショックを、生徒のうめき声が叫ばれても、権威者の命令通りにやってしまったというわけです。
この結果はつまり、 平凡な善良な一般市民であっても、権威ある者からの命令に接すると、たとえ、不合理な命令であろうと、みずからの常識的な判断を放棄して、その命令に服従してしまうことを示しているのです。
ミルグラム実験とは、第二次世界大戦でユダヤ人を強制収容所で大量虐殺したとされている「アドルフ・アイヒマン」を裁判にかけた結果、アイヒマンの人間像は決して人格異常者などではなく、真摯に「職務」に励む、一介の平凡で小心な公務員であることが発覚し、スタンリー・ミルグラムというアメリカのイェール大学の心理学者がどうしてアイヒマンのような平凡な人物が大量虐殺を実行したのかを突き止める為に行った実験でした。
「自分はそんなことにはならない」と言うのは簡単です。
でも、理不尽だと理解しながらも「上司に命令されたから」「あの人が正しいと言ったから」とついついやってしまったことはなかったでしょうか?
悪に陥らせる罠は日常のあらゆる場面に潜んでいるのです。
この実験はこのことを教えてくれています。
そんな悪に与しないためにも、私達はまず自分の弱さを自覚し、そして思考することの大切さを肝に銘じておくべきではないだろうか。
なお、『ミルグラム実験』は映画化され、アメリカなどで上映されている。
スタンレー・ミルグラム本人の言葉で
「服従の心理」ミルグラム著
の結びに
『権威の命令を考えなしに受け入れる人は、
いまだ文明人と名乗ることはできない。』
と書いてあります。
厳しい言葉ではあります。
この意味においては、この世において「文明人」など本当にごく僅かな人数なのかもしれません。
私達はその時その時で「正しい」と思えるものを選択しているはずですが、
知らず知らずに考えなしになんとなく受け入れているものって多いのかもしれませんね。